「毎日訪問が必要で、1ステーションだけでは回りきれない」「看護とリハビリ、夜間対応を分けたい」——在宅療養が重度になるほど、複数の訪問看護ステーションが関わる場面が増えます。ただし、特に医療保険では「何カ所でも自由に入れる」わけではありません。
しかも、制度上は3カ所介入が可能でも、実際には日曜日の担い手不足や緊急対応の採算、ステーション間の負担偏在によって、実現しにくく、続かないことが多いのが現場の実感です。
本記事では、3つの訪問看護ステーションが介入できる条件を整理し、起こりやすいトラブル——とくに日曜日問題と、絶対にしてはいけない形だけの週7訪問——を中心に解説します。
まず押さえる前提:介護保険と医療保険でルールが違う
複数ステーションの可否は、適用される保険で大きく異なります。
介護保険の訪問看護
ケアプランに位置づけられていれば、ステーション数の上限は特にありません。役割分担(例:Aは処置・観察、Bはリハビリメイン)が明確で、同日複数回の訪問や毎日訪問も、プランと支給限度額の範囲で組みやすいのが特徴です。
医療保険の訪問看護
原則は次の3つです。
・1日1回まで
・週3回まで
・1カ所の訪問看護ステーションのみ
この原則の例外として、一定の条件を満たす場合に限り、2カ所・さらに条件がそろえば3カ所までの利用が認められます。現場でトラブルになりやすいのは、ほとんどがこの医療保険の例外条件の見誤りと、週7計画の運用です。
医療保険で2カ所まで介入できる条件
次のいずれかに該当する場合、例外的に2カ所の訪問看護ステーションを利用できます。
① 厚生労働大臣が定める疾病等(別表第7)に該当する
② 厚生労働大臣が定める状態等(別表第8)に該当する(特別管理加算の対象となる状態)
③ (精神科)特別訪問看護指示書の指示期間中で、週4日以上の訪問看護が計画されている(訪問看護計画書に明記)
特指示による2カ所利用は、指示期間中かつ週4日以上の計画がある週に限られる点に注意が必要です。期間終了後は原則に戻り、1カ所運用へ戻す必要があります。
医療保険で3カ所まで介入できる条件
3カ所まで認められるのは、より限定的です。
別表第7または別表第8に該当し、かつ週7日(毎日)の訪問看護が計画されている場合
つまり「重度・特別管理が必要な状態」+「毎日訪問の必要性」がそろって初めて、3ステーション体制が検討できます。週7日の計画は、口頭の申し合わせではなく、訪問看護計画書への明記が前提です。
あわせて実務上、次も必須です。
・各ステーションが、主治医からそれぞれ訪問看護指示書の交付を受ける
・ステーション間および医療機関と、目標・計画・実施状況・評価・緊急時対応を共有する
・「誰が何曜日に入るか」「とくに日曜日はどこが担うか」「夜間・緊急はどこが担うか」を事前に決める
3カ所介入は、単なる人員不足の穴埋めではなく、医学的必要性と計画に基づく体制です。そして、ちゃんと週7回の計画を立てた瞬間から、一部のステーションに大きな負担が生じます。ここが、3カ所介入の最大のハードルです。
現場でいちばん多いトラブル:日曜日に訪問するステーションが決まらない
週7訪問の計画で最初に詰まるのが、日曜日です。多くの訪問看護ステーションは日曜日を休業日としており、「平日は入れるが日曜は入れない」が常態です。
3カ所介入を検討する会議でも、月〜土の分担は比較的決まりやすく、最後に残るのが日曜日——という展開が少なくありません。誰かが日曜を引き受けなければ、制度上の「週7日計画」は成立しません。逆に言えば、日曜を引き受けられるステーションがいない時点で、3カ所体制そのものが机上の空論になりやすいのです。
対策の方向性
・開始前に「日曜担当を決められるか」を最優先で確認する(曜日分担の最後ではなく最初に決める)
・日曜担当が輪番になるなら、頻度・例外日・代替ルールまで文書化する
・日曜に入れない前提で話を進めてしまわない(後から押し付ける構造をつくらない)
絶対にしてはいけないこと:他曜日に訪問して、日曜日に算定する「形だけの週7」
ここで、絶対にやってはいけない運用があります。
他の曜日に訪問しておいて、日曜日に算定し、かたち上だけ週7訪問に見せかけること。
これは不正請求にあたります。訪問実態と算定日が一致していない以上、どんな事情があっても正当化できません。
危険なのは、利用者側とステーション側の利害が、一見そろって見えてしまうことです。
・利用者・家族は、支援者(ステーション)を増やしたい
・ステーションは、日曜日には訪問したくない
この二つが重なると、「日曜は来ないけれど、体制としては3カ所・週7で整っていることにする」という内々の合意が生まれてしまいます。当事者同士では不満が出にくく、外部から見えにくい——だからこそ、組織として明確に禁止しなければなりません。
管理者・請求担当が確認すべきこと
・計画上の訪問日と、実際の訪問日・記録日・算定日が一致しているか
・日曜欄だけ訪問記録がない/別日の内容が日曜扱いされていないか
・「都合で振替」が常態化し、週7の実態が崩れていないか
形だけの週7は、利用者を守る体制ではなく、条件を満たしたことにするための方便です。発覚時の返戻・行政指導・信頼喪失は、日曜を引き受けなかった負担よりはるかに大きくなります。
緊急加算の構造が、3カ所介入をさらに難しくする
複数ステーションが介入している場合、緊急訪問看護加算などの取り扱いはステーション間で調整が必要で、事実上「緊急対応の主たる算定」を一つのステーションに寄せざるを得ない場面が多くなります。
現場で起きやすいのは、次の構図です。
他ステーションが介入・訪問した後のタイミングで緊急コールが入る。対応自体は必要でも、算定できるのが緊急加算分中心になり、通常の訪問単価と比べて非常に低い単価の訪問になってしまう。
ましてや夜間や休日の緊急対応では、出動してくれるスタッフへの給与・手当の方が高くなり、ステーションとしては赤字対応になりがちです。つまり、
・日曜・休日を引き受ける負担
・緊急時に低単価で動かざるを得ない負担
・夜間対応の人件費負担
が、特定のステーションに集中しやすい構造になっています。
「3カ所で分担すれば楽になる」はずが、実際には休日と緊急のしわ寄せ先だけが決まり、そのステーションの持続可能性が削られていく——これが、3カ所介入が続きにくい大きな理由です。
対策の方向性
・緊急の第一連絡先と、加算をどちらが算定するかを開始前に文書化する
・休日・夜間の緊急を引き受けるステーションの負担を、曜日分担や平常時の訪問比重で調整する
・「緊急だけ負ける」「日曜だけ負ける」役割を固定しない
・赤字前提の英雄的対応を、個人の善意に依存させない
条件を満たしていても算定でつまずきやすい点
「介入できる」ことと「すべて算定できる」ことは別問題です。同一日に複数ステーションが動く場合、基本療養費の扱い、24時間対応体制加算など1カ所しか取れない加算、緊急訪問時の取り扱いなど、項目ごとにルールが異なります。
現場では次を必ず確認します。
・同一日の訪問で、どちらが何を算定するか
・24時間対応体制加算を算定するステーションはどこか(原則1カ所)
・緊急時の第一連絡先と、緊急訪問看護加算の取り扱い
・介護保険利用中の利用者が別表7や特指示で医療保険へ切り替わるタイミング
そのほか起こりやすいトラブル
起こりやすいトラブル①:3カ所介入の条件を満たしていないのに始まってしまう
毎日訪問の必要感だけで3ステーション体制を組んでしまうケースです。別表7・8非該当、週7日計画の未記載、特指示(2カ所条件)と3カ所条件の混同があると、後から算定できない・体制縮小が必要になります。
起こりやすいトラブル②:指示書・計画書の整備が追いつかない
各ステーションへの指示書、計画書への週7日と役割の明記、更新タイミングのズレは、返戻リスクと現場混乱の両方を生みます。
起こりやすいトラブル③:役割分担と緊急時対応が曖昧
急変時にどこへ電話するかが家族に伝わっていない。24時間対応の算定ステーションと、実際の夜間対応ステーションが食い違う。
起こりやすいトラブル④:情報共有の分断
観察・処置方針がステーションごとに割れ、利用者・家族の不信につながる。
起こりやすいトラブル⑤:利用者・家族が「誰が来るのか」分からなくなる
顔と役割が一致しない、予定変更の窓口が複数、自己負担の説明が揃わない。
起こりやすいトラブル⑥:状態改善・期間終了後に体制を縮小できない
特指示終了や毎日訪問不要化のあと、慣れた体制のまま条件逸脱で継続してしまう。
起こりやすいトラブル⑦:ステーション間の関係悪化
休日・緊急・加算の偏在が続き、「負担だけ大きい」「都合の良い曜日だけ取られた」という対立に発展する。
なぜ3カ所介入は実現しにくく、続かないのか
ここまでを整理すると、3カ所介入のハードルは制度条件だけではありません。
・ちゃんと週7回の計画を立てると、日曜担当など一部ステーションに大きな負担が生じる
・多くのステーションは日曜休業であり、担当が決まりにくい
・決まらないまま「形だけ週7」へ逃げると不正になる
・緊急対応は低単価・夜間休日で赤字になりやすく、引き受け手が消耗する
・利用者は支援者を増やしたい、ステーションは休日負担を避けたい——この利害が、不適切な合意を誘発しうる
したがって、3つのステーションが介入することには大きなハードルがあり、実現しにくく、実現してもトラブルが多く、持続可能性がないことが多いのが現状です。
制度として可能なことと、現場として持続可能なことは別です。開始前に「日曜を誰が、何週に一度、本当に訪問するか」「緊急を誰が、赤字を含めて引き受けるか」を言い切れるか。そこが曖昧なままの3カ所介入は、やがてどこかで破綻します。
開始前チェックリスト(3カ所介入)
□ 適用保険は医療保険か、介護保険か確認した
□ 医療保険の場合、別表第7または別表第8に該当する
□ 週7日(毎日)の訪問看護が計画書に明記されている
□ 日曜日の訪問担当ステーションが実訪問できる前提で決まっている
□ 「他曜日訪問を日曜日に見せかける」運用を、関係者全員で明確に禁止した
□ 各ステーションが主治医から指示書の交付を受けている(または取得予定が明確)
□ 役割分担(曜日・ケア内容・リハ・夜間)を文書化した
□ 緊急時の第一連絡先と、緊急加算・24時間対応の主担当を決めた
□ 休日・夜間緊急の負担偏在を、平常時の分担で調整する方針がある
□ 同一日訪問・加算の算定ルールを事務間で共有した
□ 利用者・家族へ体制と連絡先を説明した
□ 見直し予定日(縮小・再編の目安)を決めた
おわりに
3つの訪問看護ステーションが介入できるのは、医療保険では「別表第7または第8に該当し、かつ毎日訪問が計画されている場合」など、かなり限定的な条件の下です。しかし条件を満たせばうまくいく、というほど現場は単純ではありません。
いちばん多いのは日曜日の担い手が決まらないこと。そこで絶対にしてはいけないのが、他曜日に訪問して日曜日に算定する形だけの週7です。利用者の「支援者を増やしたい」と、ステーションの「日曜は入りたくない」が重なると、内々に合意できてしまう——だからこそ、組織として禁止を徹底する必要があります。
さらに緊急対応は、単価が低く、夜間・休日では人件費が上回る赤字訪問になりやすい。週7を真正面から組むほど、一部ステーションの負担は大きくなります。だから3カ所介入はハードルが高く、実現しにくく、続かないことが多いのです。
自事業所が3カ所目として入るとき、あるいは主担当として他を巻き込むときは、「入れるか」だけでなく「日曜を実訪問できるか」「緊急の赤字をだれが持つか」「終わらせ方・減らす方」まで含めて設計することが、組織の質につながります。
※制度の細部や算定可否は改定により変わります。実際の運用は、最新の診療報酬・介護報酬の通知、厚生労働省の留意事項、自事業所の指定基準に従ってください。