第3部 訪問看護のケアプロセス

【指導上の遵守事項】 ケアプロセスは「省いてよい手順」が一つもない。準備・観察・実施・記録・報告のどれか一つを飛ばした時点で、事故か請求上の問題が発生する。手順を勝手に省略・変更しない。 特に記録と報告の省略は、実施していないのと同じとみなされる。

3-1 新規依頼〜契約〜初回訪問の流れ

訪問看護は「依頼を受けて、契約し、指示書に基づき計画を立て、訪問する」という一連の流れで始まる。どの手順も省略できない。特に指示書のない訪問・契約前の訪問は絶対に行ってはならない(無効・違法となる)。

段階内容新人が必ず確認すること
① 依頼受付ケアマネ・医療機関・地域包括・本人家族等からの依頼保険区分(医療/介護)、主訴、緊急性
② 指示書の確認主治医へ訪問看護指示書を依頼・受領指示書がなければ訪問できない。有効期間・指示内容
③ 契約・重要事項説明料金・体制・緊急時対応・個人情報の取扱いを説明し、書面で同意を得る自己負担・交通費・キャンセル規定の説明漏れがないか
④ 初回アセスメント・計画作成情報収集し、訪問看護計画書を作成主治医の指示との整合
⑤ 初回訪問信頼関係づくりの起点時間厳守・身だしなみ・自己紹介・説明

初回訪問の持ち物・準備(例)

  • 指示書・計画書・契約書類・地図/ルート・緊急連絡先
  • バイタル測定器具(血圧計・体温計・パルスオキシメーター・聴診器)
  • 手指消毒剤・手袋・エプロン・マスク・ビニール袋(感染対策)
  • 記録用端末(または記録用紙)、印鑑・料金表

初回は「その後の関係を左右する」最重要局面。遅刻は厳禁。到着時刻・訪問予定を事前に共有し、道に迷う可能性を見込んで早めに出発する。

3-2 インテーク・アセスメント

疾患・症状だけでなく、生活全体を多面的に捉える。訪問看護は「病院の延長」ではなく「その人の生活の場」で行うことを常に意識する。

視点主な観察・情報収集項目
身体面病状・既往、バイタル、ADL、栄養・食事、排泄、睡眠、疼痛、皮膚(褥瘡)、内服
精神面認知機能、気分、意欲、意思決定能力、不安
生活・環境面住環境(段差・手すり・室温)、家事、経済状況、キーパーソン、家族関係、介護力
社会面利用中のサービス、地域資源、就労・役割
本人・家族の希望どう暮らしたいか、どこまで望むか(意向・価値観)

フィジカルアセスメントの基本

  • バイタルサインは毎回測定・記録(血圧・脈拍・体温・SpO₂・呼吸)。前回値との比較が重要。
  • 「いつもと違う」を見逃さない。平常時(ベースライン)を把握しておく。
  • 五感(視る・聴く・触れる・におい等)を使った観察を行い、数値と所見をセットで記録する。

3-3 訪問看護計画の立案と目標設定

アセスメントに基づき、利用者・家族と共有できる目標を設定する。目標は「観察・評価できる具体的な表現」にし、短期・長期に分けて立てる。

  • 具体的に:「なるべく歩く」ではなく「1日1回、室内をトイレまで自力歩行できる」のように測定可能に。
  • 本人主体:支援者の都合ではなく、本人がどう生活したいかを起点にする。
  • 主治医の指示と整合:計画は指示書の範囲内で作成し、訪問看護計画書として主治医へ提出する。
  • 見直し:計画は固定ではない。状態変化・目標達成時は速やかに再評価する(訪問看護報告書で主治医へ報告)。

3-4 訪問の1日の流れ

段階主な内容
訪問前スケジュール確認、指示書・前回記録の確認、物品準備、ルート・駐車場確認
移動交通安全(一時停止・駐車ルール厳守)、時間管理、天候対応
訪問時あいさつ・本人確認・手指衛生 → バイタル・観察 → ケア/処置 → 説明・指導 → 次回予定の確認
訪問後記録、報告・連絡、物品補充・洗浄、必要時カンファ

訪問時の感染対策(標準予防策)

  • 手指衛生:訪問前後・処置前後に必ず実施。利用者ごとに徹底する。
  • 個人防護具:処置内容に応じ手袋・マスク・エプロンを使用。使用後は自宅に持ち帰らず適切に処理。
  • 使用器具は利用者ごとに消毒。自分が感染を持ち込む・持ち出す媒介者になりうることを常に意識する。

3-5 記録の書き方

記録は「実施の証明・法的根拠・請求根拠・連携ツール」である。記録がなければ、実施していないのと同じとみなされ、請求も認められない。

  • 客観的に:事実(観察値・実施内容)と主観(推測)を区別する。
  • SOAP:S(主観情報)/O(客観情報)/A(アセスメント)/P(計画)。
  • 経時記録:急変・事故時は時刻を追って記載。
  • その場で・その日に:記憶に頼らず、正確に。後日のまとめ書き・記憶での穴埋めは禁止
  • 改ざんは絶対に行わない。訂正は、元の記載を残す正規の方法で行う。事実と異なる記録は文書偽造につながる。
  • 個人情報・端末の取り扱いは第6部の規律に従う。

記録に必ず含める項目

  • 訪問日・開始/終了時刻(令和8年改定で記録が強化)、訪問者名
  • バイタル・観察所見、実施したケア/処置の内容
  • 本人・家族への説明・指導内容と反応、特記事項・変化
  • 次回への申し送り

⚠️ NG例:「特変なし」だけで観察内容が書かれていない/実施していないケアを記載する/他人の記録をコピーして使い回す。いずれも指導・監査・返還請求の対象となる。

3-6 報告・連絡・相談(ホウレンソウ)

単独で動くからこそ、情報共有が命綱である。「一人で抱え込む・自己判断で済ませる」ことが最大のリスク

  • 報告:状態変化・実施内容を、主治医・管理者・多職種へ。
  • 連絡:予定変更、緊急事象、ヒヤリハットを速やかに。
  • 相談:判断に迷ったら一人で決めず、必ず相談する。
  • 「異常かどうか判断できない」こと自体を早めに共有するのが安全。

伝え方の型(SBAR)

緊急連絡・医師への報告は、Situation(状況)→Background(背景)→Assessment(評価)→Recommendation(依頼・提案)の順で簡潔に伝えると、必要な情報が漏れない。

3-7 緊急時対応とオンコール体制

  • 事業所の緊急連絡フロー(誰に・どの順で・どう連絡するか)を必ず把握。
  • 急変時:まず観察と一次対応 → 主治医・救急への連絡判断 → 記録。
  • オンコール:24時間対応体制では、夜間・休日の電話対応や緊急訪問がある。対応範囲と手順を事前に確認。
  • 「救急要請の判断基準」「主治医への連絡基準」を事業所ルールで確認しておく。

判断に迷ったときの原則

  • 命に関わる可能性があれば、迷わず救急要請(119)を優先する。ためらいが手遅れを生む。
  • その後・並行して主治医・管理者へ連絡。時系列で記録を残す。
  • 新人は「連絡してよいか」を迷わない。早めの連絡・相談は正しい行動である。

3-8 看取り・ターミナルケアの基本

  • 本人・家族の意思(どこで・どう過ごしたいか)を尊重する。
  • 症状緩和、安楽の確保、家族への精神的支援。
  • 死亡時の対応・連絡まず主治医へ連絡するのが基本。在宅での自然な看取りでは、安易に救急車を呼ばない・警察に通報しない(主治医が死亡診断を行う)。事業所の看取りフローを事前に必ず確認する。
  • エンゼルケア(死後の処置)は家族の意向を尊重し、丁寧に行う。
  • 家族へのグリーフケア(悲嘆へのケア)も訪問看護の役割。
  • 事前のACP(人生会議)が、最期の局面での混乱を防ぐ。新人でも、本人・家族の意向がどう共有されているかを把握しておく。

3-9 サービス担当者会議・カンファレンス

  • サービス担当者会議:ケアマネ主催で多職種が集まり、支援方針を共有・合意。
  • 事業所内カンファレンス:事例検討、情報共有、ケアの質向上。
  • 参加時は、看護・リハの専門的視点から、簡潔かつ具体的に発言する(だらだら話さない・結論から述べる)。
  • 事前に伝えたい要点を整理して臨む。決定事項は記録し、ケアに反映する。