第5部 安全管理・リスクマネジメント

【指導上の遵守事項】 在宅は「設備がないからできなかった」が通用しない現場である。安全は工夫と徹底で守るもの。手指衛生・指示との照合・機器の作動確認を怠った事故は、過失として重く問われる。 ヒヤリハットやインシデントを隠す・報告しないことは最も重い違反とみなす。事故を起こしたことより、隠すことを厳しく指導する。

5-1 感染対策の基本(標準予防策・在宅での工夫)

在宅は病院のような設備・清潔区域がなく、自分が感染を持ち込み・持ち出す媒介者になりうる。安全は工夫と徹底で守る。

  • 標準予防策(スタンダードプリコーション):すべての血液・体液・分泌物・排泄物・粘膜・創傷を感染源とみなして対応する。
  • 手指衛生が最重要:訪問前後・処置前後・手袋着脱の前後に実施。利用者ごとに必ず行う。携帯用アルコールを常備。
  • 個人防護具(PPE):処置内容に応じて手袋・マスク・エプロン/ガウンを選択。使用後は自宅に持ち帰らず、その場で適切に処理・交換。
  • 清潔・不潔の区別:訪問バッグは床に直置きせずビニール等を敷く。清潔物品と使用済み物品を分け、動線を意識する。
  • 訪問順の配慮:易感染者(免疫低下・創傷・カテーテル留置等)を先に、感染徴候のある利用者を後に回すのが原則。
  • 感染症流行時:発熱・咳等のある利用者は情報を事前把握し、防護を強化。事業所の感染対策マニュアルに従う。
  • 自身の体調管理も感染対策:発熱・下痢・感染症状がある時の出勤・訪問可否ルールを必ず確認し、無理に訪問しない。

5-2 医療安全(誤薬・転倒・医療機器トラブル)

在宅では医師・薬剤師がその場にいない。「確認を省略しない」ことが唯一の防御である。

リスク主な対策
誤薬指示書・薬剤情報との照合(6R:正しい患者・薬・目的・用量・用法・時間)、お薬カレンダー/一包化の活用、残薬・飲み忘れの確認、変更点の把握
転倒・転落住環境のリスク評価(段差・敷物・コード・照明・手すり)と改善提案、動作の見守り、履物の確認
医療機器在宅酸素・吸引器・輸液ポンプ・人工呼吸器等の作動確認・設定値確認、アラーム対応と緊急連絡先の把握、バッテリー/停電時対応
誤嚥・窒息食事形態・姿勢・嚥下状態の確認、吸引の準備
熱傷・褥瘡湯たんぽ・電気毛布等の低温熱傷に注意、褥瘡の観察・除圧

指示との照合を怠った事故は「過失」として重く問われる。 少しでも不明・違和感があれば、実施せず主治医・管理者に確認する。

5-3 ヒヤリハット・インシデント報告

  • ヒヤリハット(事故に至らなかった“ひやり・はっと”)も必ず共有・記録する。
  • 報告は個人を責めるためでなく、再発防止のため隠さない文化が安全を作る。
  • 発生時の順序:①利用者の安全確保・応急対応 → ②主治医・管理者へ速やかに報告 → ③時系列で記録 → ④原因分析 → ⑤対策・再発防止。

⚠️ 事故を起こしたことより、隠すこと・報告の遅れを厳しく問う。 「たいしたことないと思った」という自己判断が被害を拡大させる。迷ったら必ず報告する。

5-4 移動・交通安全

訪問看護は車移動が中心であり、業務中の交通事故・駐車違反のリスクが高い。詳細は**第10部(交通安全・駐車ルール)**で完全解説する。ここでは要点のみ示す。

  • 安全運転の徹底(一時停止・徐行・ながら運転禁止)。遅れそうでも運転を急がず、連絡で調整する。
  • 悪天候・熱中症対策、無理のないスケジュール。
  • 駐車:民家の出入口を塞がない。駐車禁止場所へ停める場合は、警察署の駐車許可証/駐車禁止除外標章のルールを守る(第10部)。
  • 事故・違反は物損でも必ず警察と事業所へ報告

5-5 災害時対応・BCP(事業継続計画)

  • 地震・台風・水害・停電時の利用者安否確認と優先順位人工呼吸器・在宅酸素・吸引など医療依存度が高い人を最優先)。
  • 事業所のBCP(事業継続計画)自分の役割・参集ルール・連絡手段を把握しておく。
  • 平時からの備え:利用者ごとの災害時個別対応情報(医療機器の電源確保、避難先、緊急連絡先)、非常用物品、代替連絡手段。
  • 停電に備え、医療機器のバッテリー・手動代替(アンビューバッグ、足踏み吸引器等)の使い方を確認。

5-6 単独訪問時の身の安全

利用者・家族からの暴言・暴力・ハラスメントや、住環境由来の危険もある。「我慢するのが仕事」ではない(第4-8参照)。

  • 訪問先・ルート・帰社(次の訪問)予定を事業所と共有し、連絡が取れる状態を保つ。
  • 危険を感じたら、ケアより自分の安全を優先して退避・連絡する。無理に留まらない。
  • 犬・害虫・不衛生な住環境・室内の危険物(刃物・火気・崩れそうな物)に注意。
  • 玄関や部屋で自分の逃げ道(出口側)を確保する位置取りを意識。
  • リスクの高い利用者は、事業所として複数名訪問・訪問時間の調整・関係機関連携で対応。一人で抱え込まない。

5-7 医療廃棄物・物品管理

  • 注射針・ランセット等の鋭利物(感染性廃棄物)専用の耐貫通容器で管理し、家庭ごみに絶対に混ぜない。リキャップ(針の再装着)は原則しない。
  • 医療廃棄物の持ち帰り・回収・処理は事業所ルールに従う(自己判断で処分しない)。
  • 貸与物品・在宅の医療材料(衛生材料・カテーテル等)の在庫確認と補充を行い、不足を早めに手配。
  • 使用済み器具の消毒・管理を徹底し、利用者間での使い回しをしない。