【指導上の遵守事項】 接遇は「できていて当たり前」の最低条件であり、評価の対象である。どれほど看護・リハの技術が高くても、接遇の欠如は一発で信頼を失い、契約解除・クレーム・事業所の評判失墜に直結する。「新人だから」は言い訳にならない。本部の内容は、初回訪問までに必ず身につけること。
接遇は「感じの良さ」だけでなく、信頼・安全・継続利用を左右する専門技術です。技術が高くても、接遇が欠ければ契約解除やクレームに直結します。
4-1 「他人の家に上がる」という意識
訪問先は利用者・家族の生活の場であり、聖域です。私たちは「招かれた専門職」であり、勝手に物に触れる・許可なく部屋に立ち入る・生活を批判するといった行為は厳禁です。「お邪魔します/失礼します」の心を、行動で示します。
4-2 身だしなみ・服装・清潔
身だしなみは「自分の好み」ではなく、利用者に安心感を与え、感染・事故を防ぐための専門職の装いである。男女を問わず、次の共通事項を守る。
共通の基本(全員が守る)
- 清潔で機能的な服装(事業所の規定・ユニフォームに従う)。しわ・汚れ・においのある衣類はNG。
- 爪は短く切る(ジェルネイル・つけ爪は不可。処置時に利用者を傷つけ、感染源にもなる)。
- 強い香り(香水・柔軟剤・整髪料・タバコ臭)は厳禁。在宅では特ににおいが際立ち、体調の悪い利用者には苦痛になる。
- 手指・皮膚を清潔に保ち、手荒れは早めにケア(感染対策の基本)。
- 靴・靴下も清潔に(家に上がる仕事。穴あき・においに注意し、脱ぎ履きしやすい靴を選ぶ)。
- 華美・高価なアクセサリーは外す。手首・指の装飾は処置の妨げ・傷の原因になる。
- 名札・身分証を常に携帯し、身元を明確にする。
- 冬場も過度な厚着や装飾を避け、動きやすさと清潔感を優先する。
女性の注意点
- 髪が長い場合は必ずまとめる(お辞儀や処置で顔にかからないように)。派手な髪色・盛った髪型は避ける。
- 化粧はナチュラルに。濃いメイク・つけまつげ・ラメ等は避ける。
- ネイル(マニキュア・ジェル・つけ爪)は禁止。指輪・ブレスレット・大ぶりのピアス/イヤリングも外す。
- ストッキング・インナーの透け、露出の多い服装に注意。しゃがむ・かがむ動作でも問題ない服装を。
- 香水に加え、香りの強いハンドクリーム・ヘアミストにも注意。
男性の注意点
- ひげは剃るか、清潔に手入れする(無精ひげは不潔・威圧感の印象を与える)。
- 髪は短く整え、寝ぐせ・整髪料の付けすぎに注意。長髪はまとめる。
- 体臭・汗・タバコ臭に特に配慮(制汗・こまめな着替え)。男性は自覚しにくいため意識的に。
- 太めの指輪・ネックレス・ブレスレット・派手な腕時計は外す。
- 爪・鼻毛・耳毛・眉・襟足(うなじ)など、相手から見える体毛の手入れを怠らない(清潔感・信頼に直結する)。
- 体毛について:腕毛・胸毛・すね毛などの除毛を一律に求めるものではない(個人の領域)。ただしそで口・襟元からはみ出すムダ毛は整える、処置や機器装着の妨げ・衛生上の支障がある部位は清潔に保つ、といった配慮は必要。
- 威圧感を与えないよう、声の大きさ・態度・距離感にも配慮する(特に単身高齢者・女性利用者宅では、家族の同席や複数訪問など事業所ルールを確認)。
補足:性別による「先入観」への向き合い方
利用者・家族の中には、担当者の性別に対して次のような先入観(アンコンシャス・バイアス)を抱く人がいる。これは事実ではなく、あくまで相手が抱きがちな思い込みであることを理解したうえで、日々の言動で覆していく姿勢が求められる。
| 抱かれがちな先入観 | 覆すための行動(プロとしての振る舞い) |
| 女性 →「若い・優しそうで頼りなく見られがち」「判断や力仕事を任せて大丈夫か」と見られることがある | 根拠を持った明確な説明と判断を示す/できること・できないことをはっきり伝える/必要時は応援・多職種連携を段取りよく手配し、専門職としての信頼を行動で示す |
| 男性 →「細やかな配慮や気配りが苦手そう」「身体介助や陰部ケア等を任せてよいか」と身構えられることがある | 説明・声かけ・同意取得をていねいに行う/羞恥に配慮した介助手順を徹底する/傾聴と観察できめ細かさを示し、初回で安心してもらう |
– 前提:性別は看護・リハの能力とは関係がない。上記は「そう見られることがある」という現実への対処であり、固定観念を肯定するものではない。
– チームの視点:同性介助の希望(特に排泄・入浴・陰部ケア等)がある場合は、本人の意向を尊重し、担当調整・複数名訪問など事業所として対応する。新人が一人で抱え込まず、必ず相談する。
– 逆に、自分自身が利用者・同僚に対して性別で役割を決めつけない(例「力仕事は男性」「気配りは女性」)ことも、専門職としての基本姿勢である。
4-3 言葉づかい・敬語・あいさつ
- 基本は敬語。過度になれなれしい言葉、幼児語(「〇〇でちゅね」等)は失礼。
- 専門用語は避け、相手に伝わる言葉で説明する。
- あいさつは明るく、目を見て、はっきりと。
- 利用者の呼称は「〇〇さん」を基本とし、本人・家族の希望を確認。
4-4 訪問時のマナー(玄関〜退室)
- 到着:時間厳守(早すぎ・遅すぎに注意、遅れる時は必ず連絡)。
- 玄関:インターホン → 名乗る → あいさつ → 手指衛生。
- 入室:靴をそろえる、通された場所以外に勝手に入らない。
- 訪問中:物の移動は一声かけてから。元の位置に戻す。
- 退室:次回予定の確認、忘れ物・戸締り・使用物品の確認、丁寧なあいさつ。
4-5 利用者・家族との距離感
- 親しさと礼節のバランス:打ち解けても、専門職としての一線を守る。
- 金銭の授受、贈答品の受領、私的な頼まれごとは原則お断り(事業所ルールに従う)。
- 家族間の対立・価値観には中立を保ち、安易に一方へ肩入れしない。
- SNSでの私的なつながり要求には応じない。
4-6 電話・メール・SNSの対応マナー
- 電話:名乗り → 用件 → 復唱確認。相手の状況に配慮した時間帯。
- メール・チャット:個人情報の取り扱いに注意(第6部)。誤送信防止。
- 業務での私用SNS投稿は厳禁(利用者が特定される情報は一切載せない)。
4-7 クレーム・苦情への初期対応
- まず傾聴・共感:相手の感情を受け止める(言い訳・反論を先にしない)。
- 事実確認:何が・いつ・どう起きたかを丁寧に把握。
- 謝罪の範囲:不快な思いをさせたことへの謝罪と、事実確認の区別。
- 報告:必ず管理者へ即報告。一人で抱え込まない・約束しない。
- 記録:経緯を客観的に記録。
4-8 ハラスメント(利用者・家族からの被害)への対応
訪問看護では、暴言・暴力・セクシュアルハラスメントの被害が起こり得ます。「我慢するのが仕事」ではありません。
- 危険を感じたらその場を離れる勇気を持つ。
- 一人で抱えず、必ず事業所へ報告・相談。
- 事業所として、複数名訪問・訪問中止・関係機関連携などの対応をとる。
- 記録を残し、繰り返す場合は組織的に対応。職員を守るのは事業所の責務です。
4-9 接遇シナリオ集(例)
- 初回訪問:「本日から担当させていただきます〇〇と申します。よろしくお願いいたします」+会社・役割・連絡方法を簡潔に説明。
- ケアを拒否されたとき:無理強いせず理由を傾聴 → 代替案 → 記録・報告。
- 急変時:落ち着いた声で家族に状況を説明し、役割を依頼(「救急車を呼びますので、保険証を用意してください」など)。
- 家族が不在で入れないとき:事業所ルールに沿って連絡・確認(勝手な判断で入室しない)。
4-10 やってはいけない接遇(NG例=厳禁事項)
以下は「気をつけましょう」ではなく、一つでも行えば指導・懲戒の対象となる厳禁事項である。
- 約束の時間を守らない/連絡なしの遅刻
- 利用者・家族・前担当者・他事業所の悪口
- 「前の人はこうだった」等の比較・批判
- 家の中の物・生活習慣への無遠慮な指摘
- 守れない約束をする、独断で料金やサービスを約束する
- スマホの私的操作、ながら対応
- 利用者・家族への高圧的な態度、ため口、指示口調
- 金品の受領、私的な貸し借り、宗教・政治・勧誘の持ち込み